映画『第三の男』ダンディな洒落人に憧れるならこれを見よ!(ネタバレ感想)
皆さんは白黒映画は見ますか?私は全くというほど見たことがなかった。だけど、大学の授業でレポート課題があり、英国小説1冊を選んで感想を書かなければならなかった。私は図書館に向かい、英国小説の棚の中でも一番薄そうな本を借りた(大学生は忙しい)。それがグレアム・グリーンのサスペンス『第三の男』だった。幸運なことに、この本がとても面白く、映画にもなっていることを知った。*1そして、この映画を見てみるとダンディズム・ノスタルジア・デカダンスの大洪水であった。ということで、この作品はダンディな洒落人に憧れる人・愛と裏切りの大人の世界が知りたい人におすすめだ。ちなみに、この『第三の男』はオールタイムベストの常連であり、フィルム・ノアール*2の大家とされている。
基礎情報
あらすじ
第二次大戦後のウィーン。親友のハリー・ライムの招きでこの街を訪れた作家のマーチンは、到着早々、ハリーが死亡したことを知らされる。ハリーの死には三人の男が立ち会っていたと言うのだが、その三番目の男の正体を追って、マーチンは独自の調査を開始する。陰影や構図を凝らしたサスペンス・スリラー。(Yahoo!映画(https://movies.yahoo.co.jp/movie/13635/)より引用)
監督・キャスト
監督:キャロル・リード
ホリー・マーチンス:ジョゼフ・コットン
ハリー・ライム:オーソン・ウェルズ
アンナ・シュミット(ハリーの恋人):アリダ・ヴァリ
音楽
恵比寿駅の発車メロディーだったそうですね。誰しも1度は聞いたことがあるはず。
個人的評価
★★★★☆
全編を通じて漂うダンディズムに圧倒される。また、光と影を効果的に用いて、荒廃したウィーンが退廃的に表現されており、廃墟好きな私としてはたまらなかった。物語も単なる悪党懲罰サスペンスではない。
ただ、「第三の男」が誰かというトリックは開幕早々察せるため★4。
感想※ネタバレあり※
ハリー・ライムのカリスマ性
とにかくとにかく悪役ハリーがしぶい。
この暗闇の中からヌッと出てくる時の顔。ダンディ…。ただ、顔だけに光を当てるの大変だったろうなと思ってしまう。
観覧車の側でハリーが言ったセリフも印象的だ。
「ボルジア家の30年、争い続きのイタリアではルネサンスが開花した。兄弟愛のスイスでは500年の民主主義と平和で鳩時計止まりさ。じゃあな。」(『第三の男』字幕より)
かっこいい…!言ってることは決して人道的ではないけど、こんな言い回しができる人になりたい。というか、ハリーのインパクトが強すぎて主役が食われてる。
愛は人道も論理も超える?
ハリーは闇ペニシリン売買に手を染めて、多くの人の命を奪った悪党であって、この事実は決して揺るぐことはない。しかし、ハリーにはハリーなりの美学があったんだなあと感じた。それは、「マーチンを裏切らないこと」。
一見すると、マーチンをウィーンに呼んだのは、彼を利用するためであると思われますよね。でもそれなら、近くにいる人を利用すればいいのではないですか?だから、ハリーはマーチンを仲間にするために彼を呼びつけたと思う。それに、下水道のシーンでもハリーはマーチンを狙って銃弾を撃ったのかは分からない。反論の余地はたくさんあるけど、私はハリーはマーチンを裏切っていないと感じた。
一方でマーチンはハリーのことを裏切ってしまいますよね。警察に協力したりして。だから最後にキャロウェイ少佐に「僕は勝ったんじゃありません。負けました。」みたいなことを言ったんじゃないかなあ。そういう意味で、ハリーとマーチンは対比されている。
一方、アンナもマーチンに説得されてさえ、ハリーを愛しつづけた。「彼氏が実は大悪党でした」って言われたら、好きな気持ちも冷めちゃいそうなものだけど、でも愛ってそんな論理とか理屈とか超えてしまうものですよね。
実は小説では、アンナがハリーのことを無視せずに、腕をからませながら一緒に歩いてゆくっていうラストなんですよ。それって切り替え早すぎじゃないですか?とってつけたようなラストな気がして、私は映画版の方が好き。
『第三の男』が好きな人におすすめの映画
マフィアの愛と裏切りの世界に溺れませんか?
『カジノ』
マーティン・スコセッシ監督のマフィア映画の傑作です。マフィア達がかっこよくもあり、可愛くもあって、映画が終わるころにはそんな彼らが愛しくなっているでしょう。裏切り、裏切られるなかで愛とはなにか考えてみては?ただし、若干グロテスクな表現があるので注意。